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答えを教えるのではなく、問いを共につくる【Life is Learning | 高校生が未来の「私」に贈る問い】

みなさんは日々の中で、自分に問いを立てることはありますか。

将来自分はどうなっていたいのか、なぜ今これに夢中なのかなど、あらゆることに問いを持つことで、自分自身と向き合うことができると思います。ですが、自分で問いを立てることは案外難しい。

そんなときに、フラットな気持ちで「問うこと」をサポートしてくれるカードが隠岐島前高校の生徒との共創によって生まれました。

『Life is Learning | 高校生が未来の「私」に贈る問い【対話型カードセット】』


その名も『Life is Learning | 高校生が未来の「私」に贈る問い【対話型カードセット】』 !ちょっと長いこともあり、親しみを込めて「しつもんカード」と呼ばれています。

隠岐國学習センター「夢ゼミ」の一環で、隠岐島前高校の生徒たちが質問の専門家の藤代圭一さんと共につくったカードセットです。高校生と一緒に「進路」について考えるゼミの中で、6回に渡り作られていきました。

しつもんゼミの様子はこちら


たくさんの選択をして生きている私たちにできることは、自ら問いをつくり、答えを見つけていくこと。

  • 私はどんな自分でいたいだろう?

  • 私がこれからの人生で大切にしたいことはなんだろう?

  • 私はどんな生き方がしたいだろう?

しつもんカードでは、自分の中に眠っている答えに出会えるかもしれません。

もっと詳しくしつもんカードの魅力を探るべく、海士町noteスタッフの嘉根が、高校生と一緒にしつもんカードを手掛けた藤代圭一さんと大野佳祐さんに、「問い」を作る大切さや、しつもんカードの使い方などをお聞きしました。

■プロフィール
藤代圭一さん:
1984年生まれ。一般社団法人スポーツリレーションシップ協会代表理事。教えるのではなく問いかけることでやる気を引き出し、考える力をはぐくむ「しつもんメンタルトレーニング」を考案。2016年より全国各地に協会認定インストラクターを養成。著書に『教えない指導』(東洋館出版)ほか。

大野佳祐さん:

1979年、東京生まれサッカー育ち。大学卒業後、早稲田大学に職員として入職。競争的資金獲得などで大学のグローバル化を推進。2010年にはプライベートでバングラデシュに180人が学ぶ小学校を建設し、現在も運営に関わる。2014年に海士町に移住し、隠岐島前高校魅力化プロジェクトに参画。

嘉根千花(聞き手):
海士町へ2度移住した大学生。隠岐島前高校を卒業後、大学へ進学。R3年度の大人の島留学に参画し、海士町note担当として記事を100本制作。現在は復学しながら、引き続き海士町note担当としても活動中。


私は高校生の頃から大野さんに「問い」をいただくことが多く、その「問い」が難しくもあり、自分を知ることができたきっかけでもありました。今回、取材を通して「問い」の重要なポイントに迫りたいと思います!



しつもんカードとは

しつもんカードとは、53枚ある質問が書かれたカードの中から選び、その質問に対する自分の気持ちや答えを話すというもの。3〜4名のグループをつくり、 30分〜1時間の中で、場所を問わず対話をしていただきます。


普段なら話しづらいことや、自分自身がどう考えているのかを振り返りたい。そんなときに少しゲーム感覚をもちながら、問いを通してじっくり対話をしてほしいとの願いが込められています。



大事なのは自分を動かすための問い


――なぜ「問い」を大切にしているのでしょうか。

大野さん:
極端な話、問いさえあれば生きていけると思っています。どうすれば自分は幸せかな、どういう仕事だったら自分は楽しくいられるのかな、という問いは、当たり前のようにみえるけれど、問いを立てて生きている人は多くありません。

高校生にも「自分で動きなさい。行動しなさい。」といい続けてきましたが、実際に行動する人たちはほんの一部。なんでこの学校に入学したんだっけ?島の人たちからどんなことを学べるだろうか?という問いをたくさん作れば、行動って起こせるんじゃないか。すなわち、なかなかアクションに起こせないでいる子たちには、問いが足りないんじゃないかと思い立ったわけです。

そこから、問いのスペシャリストである藤代さんと一緒に問いをたて、自走できる生徒を育てたい、という風に思いました。


一方で、問いはすごく大事だけど、教育現場は正解主義な部分もあります。先生に「私どこの大学に行けば良いと思う?」と聞いたときに、「○○学部に行くと良いんじゃないか」と、正解を伝えてしまうことも多いのではないでしょうか。

生徒もその気になっちゃって、その大学に興味を持ってしまったりするんだけど、本当はその時に問いの言葉があるといいなと思っています。どういう仕事に就きたいと思う?今どういう風に考えてるの?っていう問いから、自らの答えに導いてほしいんですね。

親もそうで、「○○大学行きなさい。最低でも○○大学だよ!」って言っちゃたりするんだけど、本人に大事なのは自分を動かすための問いだと僕は思います。その為の練習として、まずはカードを使ってみてほしいですね。


藤代さん:
質問すること自体はみなさんしているはずで、赤ちゃんで1日4万回ほど、成人しても約2万回ほどはしていると言われています。ですが、その問いで自分を責めたり、誰かに合わせるような質問も含まれます。

僕自身も振り返って見ると、みんなはどうしてるかな、みんなはどういう選択肢を持ってるかな、ということをベースに考えてきました。それは別に悪いことだけではないと思うけれど、1番大切な存在である自分を蔑ろにしてたんだなと。



このしつもんカードでは、質問力をあげていくステップがあります。いい質問の定義は、答えたくなる問い。温かみのある優しい質問や、少し鋭い質問をまずはシャワーのようにあびていくと、自分から問いを作れるようになっていくはずです。



ネガティブな感情にこそ問いを立てる


――しつもんカードには決まったルールや方法がありませんが、対話するときに気を付けていた方がいいことはありますか。


大野さん:

自分でカードを引くことだけは大事にしてほしいです。質問って誰にされるかによって、答えも変わってくると思っています。親子だったり、パートナーだったり、先生・生徒だったり。

誰かに質問を引いてもらうと、引いたその人から問いを与えられたような気持ちになってしまう。結果、その人との関係性から邪念を生んでしまうんですよね。

邪念があると問いに正しく向き合えない気がしています。相手にどう思われるかなとか、この答えだと私って馬鹿に思われるかなとか、正直な答えにならない。そういう邪念をできるだけ少なくするために、純粋にカードの問いに答えられるよう、自分で引いてほしいと思っています。


藤代さん:

1番難しいですが、ニュートラルに質問することです。行動が大事だという信念を持ってる人って、行動するための質問をたくさんしちゃうんですね。「どうしたら行動できますか?」「どうすれば努力できますか?」って。

でも、カードに書いてあることだったら、僕たちの思惑や邪念が浮かびづらい。質問に答える人自身がニュートラルさを感じられることが、カードという媒体の最大のメリットだと思います。僕たちは人である以上、ニュートラルな質問をすることって本当に難しいんですよね。

大野さん:
難しい。どうしても私情が入ったり、こうなってほしいという意図を持って質問しちゃうから、ほんとに難しいですよね。


――あまり関係性が作られていない方としつもんカードをしたほうが、より素直に答えやすい気がしました。

大野さん:
まさにそう。むしろ初対面の方が上手くいくかもしれません。カードだとそれが割とすんなりできるのが、ゲーム感覚でいいですよね。

藤代さん:
このカードを作る過程での質問ゼミで、高校生以外にも、大人のみなさん(視察の方や大学生など)と混ざって問いを立てていたこともよかったですね。


大野さん:

大人のみなさんにも一緒に問いを考えてもらったんだけど、問いを作る力でいうと、ほとんど高校生と変わらない。むしろ邪念のない高校生の方がみずみずしい質問を作るんだよね。

それで、その質問に大人たちがのけぞるみたいな(笑)高校生のみずみずしい質問や感覚は、僕たち大人にはない視点で学びになりました。


――「しつもんカード」のどんな質問が印象深かったですか?


藤代さん:

僕がいいなと思ったのは、

「目標を立てて、そこに向かって努力することに対してどう思う?」

という問い。大人は当たり前のように目標を立ててやろう!っていうけど、彼らは疑問に思ってたことだったんです。問いとしてまだまだシンプルにできそうな気もするけれど、僕はそこ自体に疑問を持ってなかったなぁと。

大野さん:

「やりたいことを邪魔してるものは何?」

という問いには、のけぞりました(笑)やったほうが良いなと思ってるけど、大変だなと思うことって人間だれしもあるけど、そういう質問がストレートに来るというか。


――グサグサッとささりますね・・・。思い出さないようにしていた自分のダメなところが掘り起こされたようです・・・。

大野さん:
嘉根(聞き手)は、隠岐島前高校生だった頃に、誰かに問われて覚えてることある?

――なんで地域に出ていくの?っていう問いです。当時は、みんながしてるからしなきゃ。この島に来てるならすべきことの一つだと、焦りがあって。周りに合わせなきゃって思っていたから、面白さよりもしんどさが強かったです。でも、今1年間住んでみて、自分が楽しく地域の方とお話できたことはすごく思い出になりました。

大野さん:
今の高校生にもそういう子っていると思うんだよね。当時よりもSNSが発達していて、動画とかどんどん出る時代になってるから、よりリアルに焦りとか感じてるんじゃないかと思います。


でもそれって焦りによって動かされているから、本当はその焦りを感じたときに、「なんで私は焦ってるんだろう」と、問いてほしいわけよね。なんで自分は焦りを感じてるのかなって。それがすごく大事なこと。

なんで羨ましいと思ってるんだろうって、一見ネガティブな感情かも知れないけれど、そういう問いから全ての行動が始まってる気がしています。高校生にもそういう着眼点を持って高校生活を送ってもらいたいですね。


藤代さん:
行動のドライブがかかっている時に、あえてニュートラルに戻してくれる「どうしてそれをしているの?」という問いって大事ですよね。自分がやりたくてやってるんだと、再確認してくれる問いをくれる人はなかなかいないと思います。

周りをみながら自分にはできないことばかりだと考えてると、苦しいし楽しくありません。焦りから生まれた行動はいつか行き詰まりを迎えるんです。そもそも自分がどういうことを感じているのかという問いを立てて、考えてみてほしいです。



答えが正解かどうか、判断しない

――しつもんカードで答えにつまった場合、どのようにすればいいのでしょうか。

藤代さん:
逆にどうしたらいいと思う?


――私はみんなの答えを聞きたいです。聞いたらしっくりくる答えがあるかもしれないので、そこから自分の考えを付け足せる気がします。


藤代さん:

そういうのもいいね。
質問って、今は答えが出なくても、その答えをこれから探し出すんだよね。脳が勝手に。だからつまってもいいんです。その瞬間はつまっても、後で見つかるかも知れないから。他の人の答えを参考にして真似てもいいし、自分らしい答えが見つかるまで問い続けてもいい。見つけることが重要じゃなくて、問うことが大事だと思ってます。


――このカードを使う方々は、どういう心持ちやスタンスで望むといいでしょうか?


大野さん:

フラットになることかな。関係性とか、その人のイメージとか、見た目とか、一旦これまでのこととかも全部横において、フラットな気持ちでその場にいることが大事だと思います。

だから、その答えが正解かどうかを判断しない。いったん受け止めた上で、なんでそう思ってるのかを聞くこと。自分の正義で人の問いを邪魔しないでほしいなと思います。

藤代さん:
質問の答えに正解はない。いや、もはや全て正解なんです。そういう気持ちで望んでほしいですね。もう一つ、この時間は相手の話に興味を持って聞いてほしいです。もし相手の話題に興味がなかったとしても、それに興味を持つことが、相手を尊重して大切に思っている表現でもある。そういう時間にしてほしいです。

大野さん:
このカードの表面にlife is learningって書いてあるんですよ。「人生とは学びだ。」僕は結局これが好きで、何歳になっても学びって終わらないんですよね。学校の学びはいつか終わっちゃうけど、人生そのものは学びとして続いていく。

左:カードの表面
春になると海士町でよく声が聞こえてくるウグイスをモチーフに「幸せの青い鳥が問いを運んできてくれる」イメージが表現されているそう。


大人と子どもは、大人が子どもに教えるという風な関係性になりがちだけど、親が子どもから何を学べているのか、この状況から自分は何を学んでいるのかということを質問カードを通して、体験してもらうことで、学びになっていくんじゃないかなと思っています。

親でもパートナーでも、距離が近いだけに質問は難しくなっていくんだけど、そういうことすら学びの種にできる。ぜひ身近な人たちとも使ってほしいです。



おわりに

大野さん、藤代さん、ありがとうございました。
私自身も、しつもんカードを体験させていただきましたが、問い続けることで自分が大切にしている価値観が浮き彫りになると思いました。

例えば仕事でいうとスピードなのか、丁寧さなのか、協調性なのか。なにが一番譲れないのかが見えてくる。それがわかっていると、選択に間違いはないのかなと思いました。

私の印象的だった質問は、

「そろそろやめたいことは何?」

でした。やりたいことではなく、やめたいこと。そうやって新しい視点から、私生活も、仕事も、自分の在り方も、改めて振り返ることができました。

みなさんもぜひ、しつもんカードを使って対話してみてくださいね!


お誘い

2022年6月10日(金)〜12日(日)に海士町で開催されるLife is Learning ツアー 2022では、今回お話を聞いた大野さん•藤代さんがカードを使ったプログラムを企画されています。いっそ来島して問いのシャワーを浴びてみる!というのもいいかもしれません。


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海士町では、菱浦港内の島じゃ常識商店でも販売されています。


海士町のみなさんへ
海士町で新しく生まれた企画や新商品などがありましたら、ぜひ海士町総務課(TEL : 08514-2-0115)までお知らせくださいね。海士町noteやあまチャンネル(島のケーブルテレビ)などでご紹介できればと思います。

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