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働き続けたことで見つけた、仕事の楽しさとこれからの目標
海士町役場から自転車で東に5分ほど走ったところに建つ「亀田商店」。海士町の東地区にあります。
亀田商店は、現在、お店を経営していらっしゃる保野ひとみさんのご両親の代から受け継がれています。開業してから70年以上続いているそう。
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中に入ると、まず目に飛び込む商品が、たくさんのおいしそうなお菓子。買いに来るお客さんのことを考え、いつもきれいに配置されているのが印象的です。
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お客さんは海士町のいろいろな地区からも来られるそうですが、近所ということもあり東地区に住んでいる方が多いそうです。
島体験生の私は、昨年10月から12月までの期間は東地区にあるシェアハウスで生活をしていて、よく亀田商店に買いに行っていました。
私がお世話になった亀田商店を経営する保野ひとみさんにとって「働く」とはどういうことなのか、普段大切にしていることなどお話をお聞きしました。
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じつはわたしは若いとき海士が大っきらいだったんです。自然が大っきらいで(笑)。もうただ都会にあこがれてて。だから、わたし一度海士を出てるんですよ。
こう話すのは、保野ひとみさん。出身は島根県の離島、海士町。18歳のときに島前高校を卒業したあとは、大阪の学校へ進学したそうです。そして、その学校で養護教諭の資格を取得したとのことですが、ご両親の反対を押し切り、アパレル関係の会社へ就職。24歳までその会社で働き、大阪で知り合った旦那さんとご結婚。
10代のとき島を離れる前は、「商売が大嫌いだから絶対に帰らんけんね!」と決意を固めて出ていったひとみさんですが、旦那さんの「海士町で暮らしたい!」という気持ちのほうが強く、半強制的に海士町での生活がはじまったそう。なんと、約1カ月前に海士町に引っ越すことを聞かされたとも言っていました。
高校を卒業したあと、本土の学校に行くことになったんですけど、あのころは、卒業が近づくと、「もうあと半年で出られるんだ」って言ってました。で、卒業して出るときに、親にも言ってましたもん。「もうわたしここにはぜったい二度と帰らんけんね」って。いまおもえばひどいことばかり・・・・・・。
ちなみに、旦那さんは大阪府出身。現在、海士町の東地区の区長を務めていて、大阪の地元にはない海士町の自然豊かなところが気に入ったのだとか。
確かに、東地区は、周りを畑や田んぼで囲まれた自然が多い地域だと感じています。
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Uターンをすることになったひとみさんですが、昔はクラリネットという管楽器をやっていたことがあるとか。今も休日にときどき本土に行って、演奏を聴きに行くことがあるそうです。
この記事を書いている私自身も楽器を演奏することが大好きなため、勝手に親近感を覚えていました。音楽に関して聞きたいことはたくさんあるけれど、本題からはずれそうなので我慢、我慢(笑)
お豆腐づくりからはじまる1日
ひとみさんの1日は早朝午前3時半からはじまります。実は、亀田商店では、品物を販売するだけでなく、お豆腐もつくっています。
「最初はわたしの父親が、お豆腐作ってたんですけど、、お豆腐も途中からで、いろいろやってたんですよ。アイスクリームを作った時期もけっこうあったし、呉服屋さんやってたと聞いたこともありますよ。もともとはここ呉服屋さんで、むかしは夜行列車にのって、大阪とかに仕入れに行ってたらしく、そんなふうに父親のお店は始まったんでしょうね」
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ひとみさんはお豆腐を製造した後は配達業務をし、その後、9時から19時まで店舗にて販売業務をしています。
「~昼から二時間かけて、お客さんのところを回るんですけど、平日だからその時間ってみんな仕事やってるじゃないですか。だからその仕事の空いた時間をチェックしといて、その隙に行くんです(笑)。あと、海士のほかの商店さんの邪魔にならないように、気をつけてわたしなりに頑張っています」
決して無駄な時間をつくらない、相手の都合を考え、隙を見て配達に行き、自分のタスクを着実にこなしているひとみさんは、「仕事ができる女性」って感じがして、かっこいいです。私も見習いたい!
お客さんの笑顔が仕事のやりがい
仕事をしていて良かったことは、「笑って帰ってくれる人がいること」だそう。
「前に小学校のALTの先生が買いに来てくれたときに冗談で、「シニア向けの英会話教室をやってくれない?」と聞いたことがあって。そのとき、先生は笑顔で「OK」って言ってくれました。こうした私のくだらないことにも笑ってくれる人がいると、仕事をしていて楽しいです」
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取材当時、笑顔で答えてくださったひとみさん。誰に対しても明るく、気さくに振舞える、そんな人当たりの良さが”商売”を仕事としている人にとって大切なことなのだなと改めて思いました。
大切にしていることは、昔と変わらず感謝の気持ち
ひとみさんが普段仕事をするときに意識をしていることは「人とのかかわり方」だそうです。
「”売った”ではなく、”買っていただいた”と思うようにしていること、日々のあいさつ、お客さんの買い物には介入しない、うわさ話をしない、感謝の気持ちを持ってお客さんと接するということを常に意識しながら働いています。これまでにいくつかお伝えしたけれど、その中でも一番は、やはり”感謝の気持ち”ですかね」
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「だからね、まだ父親がおるころは、もうとにかくがむしゃらで、うちの商店のためにものを売っていた。いまはむかしに比べて、お客さんも減ったんだけど、お客さんへの感謝があるから、もし、ガムたった一個買いに来ても、「ガムだけ買って帰んのー。えー、ほかにも買ってくれれば・・・」っていう感覚がいまはまったくない。結局、来てくれてありがとう、みたいな。~」
「~そんなかんじでね、お店、ぼろっちいですけどね、けっこう、濃いよ。もうお客さんに感謝だなぁ。まぁー・・・こうしておれるのも、お豆腐作れんのも、買ってくれるからだよね(笑)。買ってくれなきゃ、ほんと作れないし。おいしいと言ってくれるけんね、・・・ありがたい。あらためて、ぼろいお店に足をむけてくれるお客様に「ありがとう」です」
”感謝の気持ち”って付き合いが長い人同士だと、軽く見られがちですよね。けれども、ひとみさんは昔と変わらず、買いに来てくれるお客さんのことを大切にしながら毎日働いていらっしゃることがわかりました。「人に何かをしてもらうのは当たり前じゃない」ってことをあらためて感じました。
「それと、毎日、1日の終わりに自分を褒めるようにしています。1日のはじめにやることを全て決めて、夜寝る前に「ありがとう。自分よくやった」と毎晩振り返ってから寝ることを習慣にしています。そうすることで、明日も頑張ろうと思え、モチベーションを維持することができます」
周りの人だけでなく、自分にも感謝しながら普段働いていらっしゃるひとみさんですが、一方で、接客業ならではだなと感じる大変さもあるようです。
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「やはり商売をしていると好きなときに休みをとることが難しいというのが現実です。それを実感したのは、孫が産まれたときです。周りを見ていると、孫と毎日一緒に生活をしている同年代の方が多いです。しかし、私は自分の子どもが孫を連れて年末に帰ってきたときというように限られた時間しかありません。お世話をする時間がなかなかとれず、娘や孫には申し訳ないという気持ちを持っています。そういった申し訳なさから、今はできるだけお休みをとって本土にいる子どもや孫に会いに行く機会を増やす努力をしています」
厳しい労働環境でも休日をとる努力をし、ご自身のお子さんやお孫さんのことを思いながら、ワークライフバランスを工夫して考えていらっしゃるわけですね。とても家族思いな方なんだなという印象を受けました。
楽しみながら仕事をし続けたい
先月、久しぶりに亀田商店へ行ったときに、ある変化に気が付きました。
その変化とは、店舗の中の様子が以前と比較して、冷蔵スペースが広く、より明るくなっていたということです。
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「年齢のことを考えたとき、何歳までやるかわからない。元気でいられるうちは続けていたいと思っています。何かお店を続ける目標・モチベーションがあるといいなと思い、今回新しい冷蔵庫を取り入れることを決めました。その理由は、新しいものを取り入れたら、それがやる気に繋がるのではと考えたからです。生きていくためには、仕事をしなければならない。どうせやるなら楽しまなきゃ損だなって。いつまでも楽しみながら仕事をし続けたいと思っています」
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「かつて、亀田商店前の通りは、「海士の銀座」と呼ばれ、多くのお店が立ち並んでいました。しかし、現在は亀田商店の明かりしかありません。昔の明るさを取り戻すことは難しいので、せめて今灯っている明かりをずっと消さないようにすることが、私が亀田商店で働き続ける理由なのではないかと考えています」
”せめて今灯っている明かりを消さないようにする”この言葉からひとみさんの責任感の強さを感じました。
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海士町には各地区の暮らしを支えている商店が複数存在します。海士町で暮らしているみなさんが食べ物や生活用品に困ることなく、毎日安心して過ごすことができているのは、保野さんご夫婦のように、(私が続けなければ・・・)という責任感を持った方々が海士町にたくさんいらっしゃるおかげなのかもしれません。
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「働く」とは趣味でもあり、生きがいでもある
非常に真面目で、ストイックで、仕事熱心なひとみさんに、「働く」とはどういうことなのか?お聞きしました。
「私にとって「働く」とは、趣味ではないかと考えています。ダラダラと過ごすことが嫌いで、自分から仕事をとったら何も残らないんじゃないかって思うくらい、仕事をすることは好きだからです。また生きがいでもあります」
「昔、両親から、「働く」という言葉を言い換えると「はたがらくする」と、とらえることができると聞いたことがあります。「はた」というのは周りの人という意味で、周りの人が楽をすると言い換えることができます。両親から言われたことを大切にしながら、自分の周りにいる子どもや孫が少しでも”楽”ができるように、毎日どんなことがあっても働いています」
単に、お金を稼ぐための手段ではない、趣味や生きがいと答えてくださったひとみさんを見ていると、仕事に対する考え方が変わりそうですね。
気軽に来ておしゃべりを楽しめるお店づくり
今、海士町がキャッチコピーとして掲げている「ないものはない」を感じる瞬間はどんな時ですか?とお聞きしたとき、ひとみさんはこんなことを話してくださいました。
「ないものはない・・・難しい質問ですね(笑)うーんと、人の心・・・レジでお会計をしているときに、買いに来てくださるお客さんの心の温かさを感じるかなぁ。海士町の良いところって、港に自動販売機がなかったり、手作りのビアガーデンや地区のイベントを開催したり、対面でのおしゃべりを楽しむことができる機会があることだと考えています。そうしたことから、心の温かさというか、居心地の良さにつながっているのではないでしょうか」
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「令和になった今の世の中は、スーパーマーケットのレジや映画館のチケット売り場などにシステムが導入され、いたるところで機械化が進んでいますよね。しかし、海士町はなんでもかんでも機械化せず、人と直接触れ合うことのできる場を大事にしながらまちづくりをしているなと海士町で何十年も生活をしていて思いました。亀田商店は、そうした海士町のイメージに合わせるため、昭和の頃の雰囲気を残し、対面でお話ができる環境を大切にしています。誰でもふらっと気軽に来て、おしゃべりを楽しめる、そんなお店づくりを目指しています。いろいろな人の憩いの場になればいいなぁ・・・」
なるほど・・・仕事を通じて海士町で暮らす方々の心の温かさを感じたわけですね。こうした温かい心を持った方々とのお話を楽しみながら働くことのできる環境が、ひとみさんにとっての居心地の良さとなって、「こんなお店づくりをしたい!」という目標につながっているとは素敵なことですね。
日々海士町で暮らす方々のことを思いながら、信念を持ち、ずっと働き続けようとしているひとみさんの姿は、かっこよく、とても魅力的に見えました。
書き手より
港には自動販売機はありません。だからこそ、ものを買うときにおしゃべりや笑顔、賑わいがうまれる。海士町が大事にしているものを自分のお店づくりに活かす。亀田商店は、まさに「ないものはない」を実感できるお店だなとお話をお聞きして思いました。
私は昨年10月に島体験生として来島し、海士町で暮らしはじめて約半年。まちの雰囲気とひとみさんのことが大好きになりました。今月で島を離れなければならず悲しいですが、また遊びに行きます。
(文:総務課所属 島体験生)