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「思い出写真撮影会」−海士町で写真を撮る、ということ−


島らしい写真撮影が実現できるかも?

――海士町で9年前にスタートした「思い出写真撮影会」。
「海士町で写真を撮ることができたら」という主催、小田川さんの想いがはじまりでした。

(小田川さん)10年くらい前は、写真を撮るってどこかスタジオまで行って撮ることが主流で、私自身もそんな風に、スタジオで写真を撮ることって特別だなと思っていました。

でも、ある日友人のSAMURAIさんが、年配の方にメイクをしてお写真を撮るという取り組みをされていることを聞いて。海士町でそれを開催すれば、島らしい写真撮影が実現できるかも?と思ったのが始まりです。

そして偶然、友人のつながりで海士町出身のカメラマン、崎野さんと出会うことができました。崎野さんは海士町の良さをすごく知っている方。カメラマンとしてもいろんなロケーションスタイルを知っていらっしゃる中で、「海士町で写真を撮る」という最初の目的を形にしてくださったように感じています。


――思い出写真撮影会を始めようとした頃、人が集まるのかという心配、海士町のみなさんも「写真を撮る」ということに対して、不安を抱えていたように感じられたそうです。

(小田川さん)とにかく最初は、撮影会の良さを知ってもらうところからのスタートでした。事前予約制だったので、まずは知り合いや友達にイベントの想いを伝えるところから始めました。あとはスタッフの方のご協力もあったり。
最初の頃はラディーチェのスイーツを用意したり、ヘアセットをプロの方にやっていただいてきれいにしてもらえるよ!と。その価値を伝えていきました。

最初はあまマーレやラディーチェなど、室内で撮影をしていたのですが、次第に「ロケーション撮影をしたい!」という声も上がるようになって。少しずつパターンを考えていきました。コロナ禍に入った頃には、ロケメインの撮影が増えていきました。


――崎野さんとロケ撮影を続けていく中で、2年半前に美容・着付け・撮影を担当されるおめかしフォトの有馬さんとの出会いがありました。

(小田川さん)素敵なご縁で有馬さんと出会えて。有馬さんには、今までの思い出撮影会の歩みのこと、色々お伝えして繋がりがはじまりました。

有馬さんは元美容師さん。美容から着付け・カメラまでこなせる有馬さんにしかできないことがあります。崎野さん、有馬さん、このお二人とのご縁が続いていることに、とても感謝しています。


――思い出写真撮影会といえば、海士町内のいろいろな場所で展示をされていることも印象的です。

(小田川さん)海士町の良さを伝えていきたいという想いと、写真が本当に素敵だからみなさんに見てほしい!それが展示をはじめた一番の理由です。

自分が写ってる写真って少し恥ずかしいけど…人の写真ってやっぱり気になる。展示をして「こんな風に撮ってたよね!」とか「あの方元気そうでよかった!」とか。みなさんの楽しそうな顔を見られることがすごくうれしいです。



「思い出写真撮影会」に携わる、2人のカメラマンさんにもお話を聞いてみました。海士町出身カメラマンの崎野さんと着付けから撮影までを担当されるおめかしフォトの有馬さんです。


海士町出身カメラマン 崎野さん

島根県出雲市にあるカメラスタジオ
スタジオナウの代表、崎野さん


――崎野さんがカメラマンになられた経緯を教えてください。

(崎野さん)実は一番最初、カメラマンになりたい!と思っていたわけではありませんでした。
元々家族が商売の家系だったので、いつか「自分も商売をしたいな」という思いはありました。

ただ島で育ったからか、何かに捉われずに自由に生きていきたいという気持ちもあり…。あまダイビングスクールでハマったスキューバダイビングを海外でやりたい!と思い、外国語の勉強ができる大学へ進みました。その後は海外でスキューバのインストラクターをしたり、日本に戻って人力車を引っ張る仕事したり。人と接する仕事がすごく好きでした。

(崎野さん)そんな中で、ご縁があって出雲の写真館に就職することに決まりました。
うちの家族も人付き合いが好きな人で、「人に喜んでもらいたい」という思いが僕の中でも強くあって。写真を撮ることって、人と人の関わり合いの根本的なところが大切。そういう奥深さもカメラマンになってから気づいたことで、とてもやりがいを感じています。

――「思い出写真撮影会」を通して、海士町で撮影することへの特別な思いはありますか?

(崎野さん)それはすごくあります。一番最初に海士町で写真を撮ったのは9年前。働いていた出雲の写真館に、海士町に出張撮影できるカメラマンを探しているという話が舞い込んできて、「僕、海士町出身です」と偶然主催の小田川さんとつながることができました。

小田川さんに思い出写真撮影会を企画していただいてからは、年に1、2回海士町で写真を撮ることが自分自身のライフワークの一つになっています。楽しくて、大切なお仕事だと思っています。

――崎野さんといえば、思い出写真撮影会でのお写真が「日本で最も美しい村フォトコンテスト」で特選を受賞されたことも印象的です。
(崎野さん)
2017年のコンテストで受賞させていただきました。

写真を通して、地域貢献ができることがすごくうれしいです。
思い出写真撮影会自体も、当初は友達の同級生が手伝ってくれたり、小田川さんのお友達も手伝ってくださったり…いろんな方のご協力で作り上げてきたものです。それをまた地域のみなさんが口コミでおすすめしてくださって。
本当にありがたいことです。


――崎野さんが思い出写真撮影会で大切にしていることはどんなことでしょうか?

(崎野さん)「海士町らしさ」を大切にしています。
海士町は、自由に色々なことをさせてもらえる場所。もちろん気遣いは大切だけど、自分自身もよそから来たよ、ではなく島の人であるという気持ちを大事に撮っています。

撮影自体も、定置網での撮影、踊り、牛飼いさんの撮影だったり…
海士町らしく自由で多種多様な撮影が多くて。海士町の場所ってほとんど知っているつもりだったのですが、ロケ地もこんな場所あるんだ!と知らなかった場所に連れて行ってもらえることもあります。
スケジュールから事前の打ち合わせ、当日のアシスタントまでこなしてくださっている小田川さんに感謝です。

(崎野さん)島だからこそ、お客さんが元々知り合いのことが多い。
バッグボーンや相手のことを知っているからみんな親戚の気持ちです。写真館冥利に尽きます。
海士町のみなさんに「ありがとう」と言っていただけることが何よりもうれしくて。命が続く限り、続けていきたいです!


おめかしフォト 有馬さん

松江市を拠点に活動されている
おめかしフォト出張美容カメラマン、有馬さん


――有馬さんの経歴とカメラマンになったきっかけを教えてください。

(有馬さん)生まれは松江で愛知県の大学を卒業し、美容師っていいかもって30歳で美容師に。でも本当は「ヘアメイク・着付け」で生きていきたいと思っていて。ちょうどその時に結婚式場の募集を見つけて、「これだ!」と飛び込んでみました。
結婚式場でヘアメイク・着付けの仕事をやっていた頃、「もう一個できたら商売になるよ」とアドバイスをいただいて。そのときに「カメラだ」ってふと思いました。

美容師免許をもったカメラマンってなかなかいない。その後、勉強しながらの方が身になると思い、写真館に勤務してカメラを学んでから独立しました。

――思い出写真撮影会にはどういった経緯で出会われたのでしょうか?

(有馬さん)
結婚式場に勤めていたときに担当したご夫婦が、海士町在住の方でした。結婚式の撮影後も、お子さんの七五三に携わせてもらったり。
その奥さんと「海士町でも仕事ができたらいいよね」と話していたら、撮影会を主催している小田川さんに会わせてもらったことがはじまりです。

実は、写真館時代のアルバム担当校が隠岐島前高校で、海士町には撮影で来たことがあって。まさかまた海士町でカメラの仕事をさせてもらえるなんて思ってもいなかったです。


――思い出写真撮影会で印象に残った撮影はありますか?

(有馬さん)
今日(取材日)は、2歳の女の子の撮影でした。
その子のお母さんのおばあちゃんが和裁をされる方で。その子のお母さんのためにお着物を作ったのだけど、今回はお子さんが着る。でもひいおばあちゃんはすでに亡くなられていて、今日がご命日でした。

ひいおばあちゃんの気持ちも一緒にお着付けさせてもらって。今日は特に印象的でした。でも、毎回どの撮影もいろんな物語がありますよ。


――「海士町で写真を撮る」ということ特別な気持ちはありますでしょうか?

(有馬さん)
昔は縁もゆかりもなかった海士町という場所。
ご夫婦の結婚式を担当してから10年近くたっても変わらず家族みたいに接してもらっていて、島前高校を撮影したつながりもあって。
最初のきっかけはそのご夫婦だけど、そのご親戚、お友達、啓子さん(小田川さん)、さらにその友達みたいな。

今はすごく関係性が広がっていて、船を降りるとおうちに帰ってきたみたい。自分が知っている人が増えることがうれしいです。

これからは、海士町で働く個人事業主さんとかフリーランスで働いている方、そういう方のプロフィール写真もやっていけたらと。
元気な海士町の役にも立てたのならうれしいです。


――思い出撮影会への思いや大切にしていることはありますか?

(有馬さん)
撮影会に関わっていられる方の思いが共有できたらいいなと思っています。
私は最近撮影会に参加したばかり。啓子さん (小田川さん)の中では9年、私は2年半。その9年にも歴史があって、撮影会に協力してくださる方たちがいらっしゃっての今。撮影場所を整えてもらったり、そのうえで撮影させていただいているので、ありがたいなと思っています。みなさんの気持ちや思いが叶うよう、少しでもお役に立てたらうれしいです。

お客さんに向き合ったときは、お客さんがいかに自然体でいられるかを大事にしています。その時の空気とか、わぁって言った声、においや、温度とか…写真から伝わるといいなと思っています。



思い出を残したいという人が1人でもいる限り

――「思い出写真撮影会」を主催する小田川さんに、お二人の印象を聞いてみました。

(小田川さん)写真ってカメラマンさんによって本当に変わってくるんだなと思っていて。

崎野さんは、海士町出身というところが大きいのかなと思います。島の良さを最大限に活かしながら、相手と向き合い写真に残してくれる。そして思い切りが良くて、すごくテンポがいい。一日10組撮影というハードスケジュールを組んでも笑顔で撮影してくれる方です。プロ意識がとても高く、その姿勢に学ぶことが多いです。

有馬さんは、相手の個性、お人柄を映し出してくれる方。お相手のいろんな話を引き出して、それを有馬さん自身が体に染み込ませていくというか。着付けから撮影まで、すべての時間を心から楽しんでいるのが感じられる方です。素敵な写真を残してくださいます。


――小田川さんが想う、これからの思い出写真撮影会のあり方とは。

(小田川さん)いろんな方が隠岐で撮影会などを開催されていく中で、いろんなプランがあって。これからも隠岐の最高なロケーションで素敵な写真を撮られていくのだと思います。

でも、私はその道のプロではない。

だからこそ、私にしかできない撮影会をこれからも続けていきたい。
写真を撮りたい、思い出を残したいという人が1人でもいる限り、その気持ちに応えて叶えていきたいです。
この想いが9年間続けられた理由なのかもしれません。

そしてここまで続けてこられたのは、崎野さんに出会えたから。
「私と出会ってくれてありがとう。」

続けてこれたらこそ繋がることができた、有馬さん。
「あなたが頑張るから私も頑張れる。」

いつも撮ってくださっている大切な人たちへ。
「いつも楽しい思い出をありがとう」。

毎年申し込みくださる方たちの写真を、あしあとを、これからも残していきたいです。

思い出をもらっているのは、きっと私自身なのだと思います。
そして大切にしているみんなが、その思い出話に花を咲かせてくれたのなら幸せです。





(R5年度 大人の島留学:柿添、渋谷)

島との距離は離れても、気持ちはいつも近くに