島外へ流れるお金を減らしたい!救世主はまさかのクラフトビール!?
2023年度の海士町未来共創基金に採択された「島のビールで乾杯を!田んぼと海を活かしたクラフトビール醸造事業」。
事業を立ち上げ、新たな挑戦をはじめる浅井峰光さんにお話を伺いました。
出身は愛知県の浅井さん。なぜ海士町で事業を立ち上げたのでしょうか
――海士町に移住した経緯は何ですか?
浅井さん:
きっかけ自体は非常に単純で、島内企業「株式会社風と土と」の社長の阿部さんが私の高校の1つ先輩で。
お誘いいただき、風と土とに入社をするタイミングで移住してきました。
2016年なので8年経ったのかな。
来島する前は、大きく言えばいい日本になったらいいなと思っていました。直前にやっていた仕事としては、地方の中小企業がより働きやすい環境になるための促進などをやっていました。
阿部さんとはずっと関わりはあったのだけど島に行くっていいながら行けていなかったので、一回行ってみようと思って。
その時に阿部さんと話していてちょうど仕事でもやっていた、1つの中小企業が地域でより働きやすい企業になることを超えて、海士町では社会全体、地域全体がより良くなることを目指していると言われてそうかと。
道は違えど向いている方向は同じ。その中でほかにもやれることはあるのかなと思って来ました。
――移住は大きな決断ではなかったのですか?
浅井さん:
2016年の移住は自分自身にとって17回目の引っ越しだったから、日常茶飯事の一つでしたね笑
――移住した当初は、海士で長く腰を据えるつもりはなかったんですか?
浅井さん:
毎回そのつもりはないです。結果的に見て海士町が1番長く住んでいます。
――島ならではを活用したビール事業の立ち上げ。なぜビール事業の立ち上げに辿り着いたのでしょうか
浅井さん:
実は、僕自身はそもそもアルコールは飲めないんですよ。なので、ビールが好きだからビールを作るということでは全くなくて。
その中でなぜビールなのかというと、以前、環境ジャーナリストの枝廣淳子さんがいらっしゃって、島の経済循環を調査されました。その結果から、何で島の外にお金が流れ出て行っているのかが明らかになりました。
1番大きいところでエネルギー。エネルギーの中でも電力が1番大きくて、当時でも3.3億円くらいありました。そこから、「交交(こもごも)」という電力会社を設立しました。
その次にガソリン。ガソリンも当時は3億円くらいかかっていて、それに対しても、消費を抑えるためにEV化を促進することをやろうとしている中で、
単一商品で消費が大きいものって何だろうと考えた時に、ビールが年間およそ3000万〜5000万円くらいで払われていることがわかったので、要は島の外に流れていくお金をいかに防ぐのかというところに興味を持ったのが最初のきっかけです。
はじめは町内で消費されているビールを島内産のものに置き換えることを考えたのですが、大手のビールは大量生産しているため価格では競争できません。そこで島内の資源を活かしたクラフトビールを作ろうと考えました。
島らしいクラフトビール
――クラフトビールについて教えてください
浅井さん:
現在は、2種類のクラフトビールを考えています。両者に共通するのは、原材料に海士町内の湧き水「天川の水」と、島の特産品の一つでもあるお米をビールにも使っていくこと。お米は副原料としてなんですけど、麦芽の中にフレーバーとして含みます。
浅井さん:
その2つを守った中で、まず最初に島内向けの1番飲みやすいビールを作ろうと思っています。作ったクラフトビールは島内にしか卸しません。基本的には海士町内の飲食店などで楽しんでいただけるようにします。島外産のビールの消費を抑え、島内の経済を循環していきたいというねらいがあります。
そして次に島外向け。これは島で普通にクラフトビール作っても、ほかにもたくさんクラフトビールがあるこの世の中で売れないなと。差別化しないといけないなと思った時に、最近よく海洋熟成のワインとかウイスキーとか聞くじゃないですか。それを2年くらい前から試験的にこの海士でワインとか沈めて味の違いとかを確かめていたんですね。なのでそれのビール版ができないかなって思って。
その中で、普通のビールを熟成しても、鮮度が落ちるからただ味が落ちるだけなんですけど、アルコール度数の高い、ハイアルコールビールと呼ばれる種類のビールがあるんです。普通のビールとは違ってウイスキーのように飲むようなもので、熟成に適しているのではないかと思い、ハイアルコールビールを島外向けに商品化したいと考えています。
――お米を副原料に使用するというお話だったのですが、なぜお米を使おうと?
浅井さん:
もともと僕が所属する(株)風と土との中でSHIMANEGASHIという研修をやっているんですけど、その中で出会った方が、副業でビールを作られていて。その人がライスビールというのを作っていたんですよ。でも、ハイアルコールのビールでライスビールというのはまだ、やったことがないそうなので味の感覚はこれからどうなるのかなという感じです。
――お米を副原料に使うことで味にはどういった変化があるのでしょうか?
浅井さん:
ライスビールは味で言うと少しコクが出るというか、基本的には飲みやすいビールを作るんですけど、ちょっとコクがあるような感じになります。
――試験的に何度か熟成をされているみたいですが、海士の海は熟成には適しているのですか?
浅井さん:
海洋熟成には温度も大事なのですが、海士の綺麗な海を使ったというイメージが大きいです。やっぱりきれいな海で熟成されていた方がいいじゃないですか。気持ち的にも。だからこそ海士の海で熟成することに価値はあると感じています。
そもそも海自体に特性があるみたいで、海に潜るとキーンと音がしませんか?高周波っていうのかな。その小さな振動と温度が関係しているみたいです。
今は熟成の期間とかを調べていて、ワインとかは味が変わるのか確認できたのでビールも変わってくるのかなって思います。
――今回採択された「未来共創基金」の主な使い道を教えてください。
浅井さん:
主な用途は2つあって、一つは試験醸造費です。まだ世の中に海洋熟成ハイアルコールビールというものがないからハイアルコールのビールを海洋熟成したらどうなるのかということの試験費用。そしてもう一つが試験を経た先にある工場を作る時の設備費用ですね。基金の大部分は設備費用に活用しますが、一部を試験費用として使っていくイメージです。
――「未来共創基金」のnoteに書かれていたのですが、クルージング×海洋熟成について教えてください。
浅井さん:
これは 副次的に起きたらいいなと思っていることなのですが、例えば、Entôに泊まりに来た方が、ハイアルコールビールを沈めて、自分だけの海洋熟成ビールをつくる体験は多分してもらえるんじゃないかと思っていて。 沈めに行くのと、半年後に引き上げに来ることがセットで観光のコンテンツになったらいいですし、クルージングにもなりますよね。海士って基本的に観光で来ると、宿泊します、飲食店にも行きます。それ以外で、あまりお金を使って楽しんでいただける観光資源が少なくて。クルージング×海洋熟成が、観光で来られた方に楽しんでいただけるコンテンツの一つにできたらいいなという風に考えました。
浅井さんには売り上げた先に目標があるそう。
――この事業を進めていく上での目標などあったらお聞かせください。
浅井さん:
新しい起業のカタチをつくることが目標。
そのためには、ビールを僕が専念してやりますという状況ではなく、みんなで複業的に事業を生み出していくという流れを作りたいです。僕は海士町複業協同組合の理事もしています。これは外から来た方が海士町で複業をすることを推進しているんだけど、外からじゃなくて島中の人もいろんな事業にちょっとずつ関わる中で、事業が立ち上がっていくみたいなモデルを作りたいと思っています。ビールをつくるにも何をするにも一事業をする人が一つの事業に専念し続けると、新しい事業をはじめるときには更に人手が必要になってしまいますよね。
浅井さん:
「誰かが1つの事業に専念し続けなくても事業は作ることができる」というモデルを島で実践していきたいと思っています。
この8年で島の中の幸福度を僕が見てきて、おそらく1人に複数の役割があることは、この島の幸福度の3つあるうち1つぐらい大きな柱だと思っていて、例えば社会福祉法人さくらの家の方でふくぎ茶も作るし、和裁もされる方がいらっしゃって。
僕はこういう働き方が理想的だと思っています。1つの仕事で終わるということよりも複数の仕事をすることで人との関係性も膨らみますよね。
ハーバード大学が75年間継続的に幸福度を調査していて、人生の途中経過で地位とか名誉も関係してくるんですけど、最終的に人の幸福度を左右しているのは人間関係という結果になりました。
自分も複業組合で働きながら田んぼもするし、電気もビールも作っています。こういう働き方を今後も増やしていきたいです。
ーーありがとうございました。
浅井さんが起業に注いでいる情熱、そして海士への深い想いが伝わるインタビューでした。
(海士町note担当:布野)