「本・ヒト・想いが集まる図書館を目指す!!」
みなさんこんにちは、はじめまして。今年度からはじまった1ヶ月間のインターンで、教育委員会に所属しています。田口真梨乃(たぐちまりの)です。
初めてのインタビュー、初めての記事にとても緊張していますが、精一杯図書館の魅力を伝えられるように記事を書きたいと思います。
大人の島体験生が海士町の地域共育を支える方々に熱い想いを伺うインタビュー企画「あま育を支えるひと」、4人目は海士町中央図書館館長磯谷奈緒子さんです。
「商品開発研究生として、海士町に来島」
ーどのような経緯で海士町に来られたのですか?
磯谷さん : 短大を卒業後、京都のホテルに就職しました。その中で都会の暮らしに違和感を持つと共に、環境問題に興味を持ち始め、3年の勤務を経て退職しました。退職してすぐに興味があった屋久島を訪れ、自然と共にある暮らしに衝撃を受け、そこで暮らすこと自体が深い学びになると感じ屋久島へのIターンを決めました。その1年後、改めて環境・まちづくりに関する仕事がしたいと探していたときに、海士町の商品開発研究生(自分の好きなテーマで街づくりにチャレンジできる、外から見た目線で島の宝を発掘してもらおうというもの)の求人を知り、移住を決めました。
ーでは、来島された時には図書館に関わるということが決まっていなかったのですね?
磯谷さん : はい、そうなんです。学生時代、そして社会人になってからも図書館が好きでずっと利用してきたので、海士でも図書室を利用していました。でも、本も少なく古い本がただ並べてあるだけで、さすがに物足りなさを感じていました。
「読書教育を町の中で推進しよう」
ー島にあまり図書館が根付いていないところにどのようにして、「島まるごと図書館」の構想ができたのですか?
磯谷さん : この構想は、その当時の教育委員だった田口さんが発案しました。人づくりを重点的に進めていく上で教育委員会として何に取り組んでいくか話し合いがされ「読書教育を進めよう」となったそうです。そこから「島まるごと図書館構想」の大枠だけ出来て、具体的な内容については新たに採用された図書館スタッフが考え、進めていきました。
この「島まるごと」というワードは海士町がその時に進めていた“海士デパートメントストアプラン~「選ばれし島まるごと届けます」~”というものからとりました。でも、大枠しか決まっておらずゼロの状態だったので、「さあ、これからどうしよう」と不安でいっぱいでした。
ー図書館が機能していなかったということは「読書」への関心が薄かったのではと思うのですが、図書館ができることへの反応はどのようなものでしたか?
磯谷さん : 住民の方からの反対意見は特になかったと思います。海士町の図書館はハードありきでなく、本を置いてもらえそうな施設にお願いして図書コーナーを設置するというお金のかからない、ボトムアップ形の事業でしたから。アイデアや機動力で図書館サービスを提供していくという、まさに「ないものはない」を体現したような事業で、最低限の予算で走り始めました。
ー「読書」と「教育」はとても深いつながりがあると耳にします。実際に働いていてもそのように感じますか?
磯谷さん : 自分の考えを深め広げる、自分を表現する言葉を獲得する、自分の考えを持つなど生きていく上で欠かせない大切な力を身に付けることができる読書は失くしてはならない文化だと思います。さまざまな電子メディアが世の中に出てきましたが、いきなりデジタルに完全移行するのはどうかと心配しています
本と電子メディア、それぞれに良さはあると思うので、バランスを取りながら注意深くつきあっていくべきではないでしょうか。読書と考えることは同じような脳の働きだと言われるので、とても能動的な脳の働きですが、検索してすぐに答えがでるインターネットに頼りすぎて考えることが減ってしまうのは少し怖いなと。
そういう意味でも本を読むことで育つ力は大きく、教育の基盤となる力を身に付けることもできると思います。子どもは、本を与えたら自分で楽しんで読んでくれますし、乳児期から本に親しめる環境をしっかり整えていきたいと思います。
「住民の方や町に対して出来ることを図書館で」
ー様々な苦労が絶えなかったと思います。それでもぶれずにここまで続けられてきた背景には磯谷さんの中にどのような軸があったのでしょうか?
磯谷さん : 自分自身も海士町に住み続けるいち住民だからこそ、町の課題やニーズに気付くことがいろいろとあります。なので、生活者の視点を大切に住民の方に「図書館が町にあってよかった」と思ってもらえるよう取り組んできました。子育ての時期は特に、ちょっと息抜きにお出かけできる場所や、心が休まる居場所があれば良いのにと感じていました。でもそういった場所は誰にとっても絶対必要ですよね。2010年頃はそのような施設が町にあまりなかったので、図書館がそういう場になったらと思い、カフェサービスなど居場所づくりを意識して進めていきました。
磯谷さん : もともとまちづくりに興味があって来島を決めたこともあり、図書館を町の中でどのように活かしていけるか、町に対し何ができるかを運営の軸にしてきました。図書館という狭い枠のなかで運営を考えるのではなく、町や社会という広い視野に立って考えられたらと思います。
「町が小さいからこそ、生の声が届く」
ー今では本に取り上げられたり、雑誌に取り上げられたりなど、海士町の中でも図書館という存在は大きいものになっているのではと感じるのですが、やりがいはどのようなところに感じますか。
磯谷さん : 利用者さんからの「面白い本に出会えた」「居心地がよい」「大切にしたい場所」といった声を届けて頂いた時や、共催イベントを通じてお互いに充実した時間をすごせた時などにやりがいを感じます。ほかに利用者の方に言われた印象的な言葉があって...
という話をFacebookに投稿してくださった方がいて、それを見た他の人も私もそうだったと声が広がっていって、それは泣けるなと思った出来事です。自分自身も本の提供だけでなく暮らしや心の拠り所になれる場所をつくりたいと思ってきたので、みなさんにもそう感じていただけるよう頑張りたいと思います。図書館の成果や役割は目に見えない部分も多く、伝えるのが難しくてもどかしさを感じてきましたが、伝えることも大切な仕事だと思うようになりました。
「この島で感謝をかえしたい」
―仕事をする上で今後大切にしたいことはどのようなことでしょうか?
磯谷さん : この島で図書館の仕事に出合えたことにとても感謝しています。なかったら住み続けられたかなとひそかに思っています。(笑)都市部と離島では図書館にできることの可能性が違うなと思います。全国一律で図書館基準はあるけれど、それぞれニーズやできることは違うはずだよなと思っていて、どのような規模・サービス内容にしたら、この島のなかで最大限の力を発揮できるかを考えています。
でもその前に海士町図書館は最低基準に遠く及ばない規模なので、教育や人づくりに力を入れる島として図書館を今できる範囲でよいので拡張できたらと思っています。気軽に話ができる交流スペース、仕事や学習に集中できる静かなスペースなど、用途別に分けられたら過ごしやすくなると思います。
最後に、今後どのような図書館にしていきたいなど、将来の展望を教えてください。
「海士の人・活動と結びついた地域に根差した図書館に」
―今後どのような図書館にしていきたいですか?
磯谷さん : 本の貸出や生涯学習の拠点といった基本的役割をさらに充実させていくのはもちろん、町や社会をより良くするために図書館に何かできないかという思いがずっとあります。その一歩として、住民の皆さんと町のこと・暮らし・環境問題等について考えるミーティングを定期開催しています。
皆が気軽にまじめに自分の町について考える場が必要ではと感じていたので、同じ思いをもつ住民の方と一緒にそういった場を開いています。知の集まる図書館がまちづくりの拠点になっていけばと思います。
図書館の拡張が実現したら、住民の暮らしや町の活動に役立つ本をきちんとそろえ、多様な場を提供することで、地域を盛り上げていけたらと思います。これからも、小さく柔軟であることの利点を生かし、ひとつひとつ丁寧に活動を積み上げていきたいです。海士の人・活動と結びついた地域に根差した図書館となれるようにがんばります!
インタビュアーから:
海士町中央図書館にはカフェスペースがありますが、それは磯谷さん自身がコーヒーを飲むひと時をすごく大切な時間だと思っているからだそう。図書館に勤める前は、町内のある施設でお店をしていたそうです。
そこで、お茶をしながら本を読み交流ができる場所をつくり自書を貸し出していました。「よくよく考えると根本的に同じことをやっていて、現在のコーヒーが飲める図書館につながっていたのかも」とのことでした。
私が海士町にインターンとして来島を決めた理由は島まるごと図書館構想の記事を見た時に、島の中に図書館が点在しているってどういうことなんだろう、島の中で図書館はどのように機能しているのだろうと疑問に思ったからです。
実際に訪れてみると、図書館がすごく地域の方と近いのだなと実感しました。落ち着いた雰囲気が流れ、本当に心がホッと休まる場所だと感じます。また、図書館でもお仕事をさせて頂く中で、磯谷さん自身がもっと図書館をよくしたいという思いがあり働いていらっしゃるのだなとひしひしと感じました。
熱意があるからこそ、拡張のお話や今後どのような図書館にしたいかのお話に、心動かされます。今後の発展がとても楽しみです。