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舟小屋再生プロジェクト、昔ながらの工法で100年前の歴史を再び。

海士町の指定文化財宇受賀命神社が建つ、海士町の宇受賀地区

田んぼが広がり稲穂との景色も美しい地区です。神社を横目にまっすぐ進むと宇受賀漁港が広がります。

海士町宇受賀地区

ここ宇受賀地区の舟小屋は当時の場所にそのまま残っており、舟小屋では海士町の伝統的な舟である「かんこ舟」を守ってきました。

宇受賀漁港

そんななか、海士町の有志が集った「海の士(ひと)を育む会」さんと島根大学建築デザイン学コースの小林久高准教授、総合理工学部4年生の仲田ひなたさんを中心に舟小屋再生プロジェクトが立ち上がりました。

小林准教授が8年前に海士町の舟小屋を調査した論文を、海の士(ひと)を育む会さんが読み、再建を持ちかけたことがプロジェクトのきっかけとなったそうです。

今回、舟小屋を一棟再生するにあたり大切にしていることは、昔の舟小屋と同じ工法で建て直すこと。
舟小屋は古いものだと築100年くらいになるそうです。


昔の道具と工法で


海士町noteスタッフが初めて取材に訪れた8月21日。
この日も暑い中、作業が行われていました。

木が黒い。丸太を炙って炭化層を作ることで耐久性が上がるそうです。
これが建物の柱か…。と丸太を眺めていると小林准教授が不思議な道具を持って話しかけてくれました。

何ですか!?その道具は?

小林准教授:「これは手斧(ちょうな)という道具です」

小林准教授:
「木の表面を削る道具なんです。昔はのこぎりがなかったので、この道具で平らにして板をつくったりしていたみたいですよ。」

小林准教授自ら実演してくださいました。ありがとうございます!!!

小林准教授:
「宇受賀地区の人が貸してくれました。なかなかうまくいかないね(笑)」

そうやって使うんですね…。
昔の道具を活用することで当時のおもむきが出るような気がします。

実は、海の士(ひと)を育む会の方から再建のお話が来たと聞きましたが、再建しようと思った理由は?

小林准教授:
「普通の大工さんとかは記録があって本を読んだらわかりますけど、地元の人が昔から作っている技術ってどんどんなくなってしまう。今、仲田さん(島根大学4年生)が調査してくれているからかろうじて残っていますけど、記録したり、作ってみないと気づかないうちに全部なくなってしまうので、非常に良い機会ですし、再生するにあたって後世の人にもこういう技術が地元にもあったんだよっていう事実を伝えられたらいいなと思ってはじめました。」

確かに、地元ならではの技術がなくなってしまうのは悲しいです。伝統が残ると次にもつながりますからね...。

右の写真は以前建っていた舟小屋の一部。昔ながらの工法を忠実に再現しています。

丸太の伐採や資材の手配などは隠岐島前森林組合さんの力もお借りして行われたといいます。
使用する木材は海士町産。柱の丸太は崎地区に住む方に了承をいただいて伐採されたものだそう。この丸太は後日、屋根の簗になるとか。

こちらの杉皮は小屋を雨から守るために屋根に葺かれるもの。
どんな舟小屋が完成するのか楽しみになってきました!!


柱と格闘する1日

あれから4日後、久しぶりに訪れると...。
建物らしくなっている!!!
この日は夏休みを利用して海士町にインターン生として訪れている学生や大人の島留学生とともに着々と作業が進んでいました。

インターン生も作業に参加

丸太を削ります。屋根の荷重を支える軒桁(のきげた)に利用するそうです。あの手斧(ちょうな)も使いこなしていますね。

手斧で削る

小屋では、先ほど削っていた丸太を結合し、軒桁(のきげた)を作っていきます。ちょっと浮いている...?地道な作業が続きます。

軒桁を固定

柱を建てる地面の穴も塞がりましたね!

小林准教授:
「今地面に柱が埋まっていますけど、これも昔のやり方。穴を掘ってドーンと柱を置いて周りを砂利とかで挟むっていう。縄文時代とかからやっている作り方ですね。」

ここで、もう一本軒桁(のきげた)に使う丸太ができたみたいです。
試しに乗せてみることに!うまくはまるのでしょうか…?

重機は一切使いません!

どうやら隙間が…。削って微調整を繰り返します。

削って調整

小林准教授のチェックが入ります。
あとちょっと削りが足りなかったようです。


大苦戦の竹割り作業

季節はあっという間に9月に突入。軒桁(のきげた)も仕上がり、屋根らしい形が見えてきました。
この日、小林准教授と島根大生の仲田さんは不在。海の士を育む会さん、大人の島留学生、インターン生で作業を進めます。

宇受賀地区の方からいただいた竹を半分に割る作業。
屋根に乗せた杉皮を固定するときに使用するとか…。
しかし、竹は硬くてスムーズに"なた"が入ってくれません。知恵を駆使し、2人1組になって"なた"を木でたたきながら刃を通していきます。

竹の節に大苦戦

屋根の土台づくり

9月ももう少しで終わろうとしている頃。「大詰め作業!」という一報をいただき、急いで現場に駆け付けると屋根を支える役割を持つ垂木(たるき)が並べられていました。
足場は海士町の建設会社北峯工務店さんからお借りし、高いところの作業もスムーズにこなせているようです。

分担しながら着々と作業は進みます。
こちらでは屋根の上に葺く杉皮の準備に取り掛かっていました。

立派な杉皮です

ブルーシートの上には杉皮が並べられ、汚れを落とし、水で浸して柔らかくする作業です。杉皮には防水効果があるため屋根材に最適だとか。

杉皮を湿らす

小屋に戻ると片側だけだった垂木(たるき)が両面に綺麗に並べられていました。しかし、この日は垂木(たるき)の間隔やゆがみを修正し、惜しくもタイムリミットです。

垂木(たるき)が設置されました

杉皮葺きと完成に向けて

次の日は前日に並べた垂木(たるき)に野地板(のじいた)を等間隔に配置する作業。この上に屋根を覆う杉皮が乗せられます。

野地板(のじいた)を運びます

野地板(のじいた)の余分な部分は切り落とし、並べ終わりました!!
もう小屋の姿になっている!

屋根の形が美しい

いよいよ屋根に杉皮を敷く作業、『杉皮葺き』という工法を用います。
杉皮を重ね、釘で固定します。

杉皮を重ねて、雨風から守ります

海士町宇受賀地区の方々からも貴重なアドバイスをいただきながら、1枚1枚杉皮を並べていきます。

分からないことは地元の方に相談

日も暮れはじめ、本日の作業は終了。
いよいよ明日は完成予定日です。

苦労して割った竹も活用されています

ラストスパートは、小屋を守る一工夫

昨日に引き続き、残りの杉皮を葺く作業からスタート。
杉皮は風で飛ばされないように、屋根の野地板(のじいた)と割った竹で挟むように固定します。

残りの杉皮を葺く
杉皮で屋根が仕上がりました

いよいよ最終工程。最後は石を載せる作業!
石が屋根全体に積み上がったところで完成です!!

大人の島留学生やインターン生、海士町のみなさんとも協力し、完成した舟小屋。みんなの想いが形となった瞬間でした。

最後に小林准教授、設計に携わった仲田さん(島根大学4年生)にお話を伺いました。

━━無事に完成しましたが、今のお気持ちは?

小林准教授:
伝統的な建物を作る機会ってないですからね。これを若い人たち含め、海士町のみなさんと一緒になって作業して、良いものができたなと思います。みなさん面白いといってすごいよろこんでくれましたし。

小林准教授

━━仲田さん(島根大学4年生)は今回、宇受賀地区の方々に聞き取り調査と残っている舟小屋を参考に設計も担当したそうですが、発見はありましたか?

仲田さん:
もともと大工さんをやられている海士の方に図面を見せたら、「こんなんようつくらんで」と言われたので、本当に海士の方々の手仕事だったんだなということがわかりました。建物に隙間もありますけど、それも現代建築と違って、味になるなと思いました。

仲田さん

━━今後はどう活用していってもらいたいですか?

仲田さん:
海の士(ひと)を育む会さんでかんこ舟の再生をしようとがんばっていらして、かんこ舟が屋根の下にないと雨が降るたびに溜まった水をすくわないといけないから、ここにいれてもらえたら仕事量も減るんじゃないかなと思っています。あと、作り方や仕上がった舟小屋を見て、昔の景色を少しでも想像してもらえたらうれしいです。

完成した舟小屋の前での1枚

餅投げ

10月23日(月)には、宇受賀地区のみなさんをはじめ、お世話になった方々に向け、餅投げが実施されました。


舟小屋をみた島内の方からは「いいのが出来ていますよ、上等だわ。」といううれしい声も。

歴史の再生としてまずは1歩。
また一つ海士町の伝統が受け継がれました。

(R5年度 大人の島留学生:渋谷)


島との距離は離れても、気持ちはいつも近くに