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島暮らしの面白さは、実は自給自足ではないのかもしれない。

みなさん、こんにちは。
6月半ば、田植えも終え、あたり一面に広がる小さな苗と田んぼの水面がとてもきれいです☺今年も海士町産のお米がすくすく育つといいなと思います。

海士町では、たくさんの方がお米や野菜などを育てています。3月に公開した「自分で育てた「もち米」で作る本みりん 海士の本みりん 儘(mama)」の記事でも、海士の情報をぎゅっと閉じ込めたもち米を育てられていました。


自家製のもち米を使用した海士の本みりん 儘(mama)を手掛けている、みやざきサービスの宮﨑さんご夫婦にインタビューを行いましたが、

その時に、自分たちで作物を育てることへの想いや、宮崎さんが食に対する関心が深まったきっかけ、地産地消、農への想いなど、食について様々なことを教えていただきました。

ぜひ、海士の本みりん 儘(mama)の記事とあわせてご覧ください!


調味料や食材を選ぶ視点が変わった

調味料や食材の選び方を変えたら、「食べることがより楽しくなった」ことで、食や農についてもっと詳しく知りたいと思うようになったという宮﨑美穂さん。初めて一人暮らしを始めた当時は、「時短」や「節約」がブームで、なんとなくそれを意識しながら食材を選んでいました。

しかしある日100円の乾燥ワカメを手にしたとき、これが本当に100円でできるものなのだろうかという疑問が浮かんだそうです。食材が店舗に並ぶまでには色々な人の手間がかかっているはず。「安い」にはワケがあるのかもしれない、と、その時から食材を選ぶ視点が変わり始めました。

ちょうどそのタイミングで、家の近くにあるマクロビオティックのカフェに行くことに。そのお店で食事をしたところ、身体がものすごく元気になり、「食べ物でこんなに体が元気になるのか!!」と、衝撃を受け、食べることの大切さを実感しました。

マクロビオティックが大切にしているのは、「身土不二(人と土は一体であり、その土地で季節に採れたものを食べるのがよい)」「一物全体(食物は全体でひとつの命、丸ごと余すところなく食べるのかよい)」という考え方。

調味料も、添加物や化学調味料を含まないもの、無農薬・有機栽培された素材を使い、昔ながらの製法で作られたものが使われています。そのカフェとの出会いから、美穂さんは少しずつ、日々の食事を変えていくことになったといいます。


食べ方と生き方はどこか繋がっている?

もう一つ、美穂さんにとって食べることを意識するきっかけがありました。それは中学校で教師をしていたころの、給食の時間でした。給食時間に聞こえてくる、数々のこどもたちの言葉。「これきらいー。」「まずいー。」「ダイエットしてるからいらない。」と。このままでいいんだろうか、と考える毎日でした。

ましてや給食の時間は短く、生徒たちは、食べ物とゆっくり向き合う時間がないのではないか、お腹に食べ物は入っていても口や心で味わえていないのではないかと感じていたそうです。

ただ、そんな中でも、目の前にある食事を大切に、おいしそうに食べている子たちもいました。

日々こどもたちの様子をじーっと見ていると、食べ方と普段の様子、食べ物に対する向き合い方と周りの人への接し方が、なんとなく同じような気がします。もしかすると食べ方と生き方って、どこか繋がってるのかもしれない。

教科の指導より、校則より、給食の時間がまずは大事なんじゃないか、と考えるようになりました。


何を食べるのかよりも、どう食べるのか

食の大切さを生徒たちに伝えていきたいと考え、少しずつ食べることについて考える時間を授業に取り入れ、試行錯誤する美穂さんでしたが、話すほどに、自分の言葉に重みがないことを実感していきました。

「お米を作るのはとても大変なこと」「食べるというのは、命をいただいているということ」と話したところで、自分はお米を最初から育てたこともなければ、鳥や豚を飼って絞めたこともありません。

自分の言葉はなんて薄っぺらいんだろう。言葉に重みがないから、生徒にもちゃんと伝わっていないのではないか。そう思った美穂さんは、お米作りを体験するため、WWOOFというプログラムに参加しました。それが海士町との出会いでした。

そこから、「食」への関心は深まり、現在のようなできるだけ暮らしている土地にあるもの、自分たちで作ったものを食べる暮らし方へとつながっていきました。健康であるために何を食べるのかも大事だけど、どう食べるのかも大事なことだと感じているそうです。

「「感謝するんだよ。」と言って、感謝させるのではなく、自分たちの経験や体験を通して、楽しみながら、自然に「ありがとう」が出てくるのがいいと思う。

大人もこどもも、台所で学ぶことは本当にたくさんあるけれど、夫は「海士は町全体が大きな台所だ」と言っています。目の前の海で採れたものを捌いて食べる。田んぼや畑で作物を育てている風景がいつも身の周りにあって、その恵をいただく。命をいただいていること、食べ物は手間暇をかけて作られていること。こどもたちが日常でそれを体感できる環境は、最高の学びの場だと感じています。」(美穂さん)


みんなにとって良い調味料はない
良い調味料は人によって違う

美穂さんは一昨年、土に触れる暮らしをしている仲間と「暮らしに楽しみの種をまき隊」というグループを作りました。その最初の活動として、食に関する番組を作ったそうです。

番組の中で、調味料エバンジェリストの下倉先生に講演していただいたときにお話していただいた、「調味料に良い、悪いはなく、みんなにとって絶対的に良い調味料というものもない。

だから、自分の大切にしたいものや、自分なりのモノサシで、調味料を選ぶ。そういうものを選んで行けば、日々の食事や生活スタイルにも変化が生まれるはずです」という下倉先生の言葉が印象的だったといいます。

みんなにとって絶対的にこれが良いというものはない。値段を重視する人や、環境を重視する人、産地を重視する人など、様々な考え方があってどれも大切なことです。自分に合ったモノサシで、これを使いたい!と選ぶことが1番大事ということでした。

美穂さんにとってもこの講演で学んだことは、すごく大きかったといいます。その番組「教えて調味料のこと」のDVDは、海士町図書館で借りることができます。基礎(みりん、酢)編・塩編・砂糖編とシリーズになっています。


自家製の米と麦と豆で、自家製の調味料を作る

宮﨑さんのお宅では、海士の本みりん儘で使用されているもち米のほか、うるち米、野菜や麦、豆などを育てられています。米と麦と豆があれば、昔から日本の食卓を彩ってきたものは、大抵なんでも作ることができる。宮﨑さんは、たくさんの自家製の調味料を作っています。

米麹をおこして、大豆と一緒に混ぜたら味噌に。大豆でおこした醤油麹と麦を混ぜて醤油ができます。米麹で甘酒も作り、大豆をしぼって豆腐にもできる。稲藁に蒸した大豆を入れると納豆にもなる。などなど、いろんなものを作られています。

食べ物以外にも、海士町の桜木を使ってスプーンも作られています。食べるときの口当たりでも食べ物の味が変わり、美味しくなるのだそうです。


海士町で農を気軽に始める仕組みを広めたい

「食」で暮らしを豊かにするということ。宮﨑さんご夫婦は、その観点から今後継続して取り組むと面白そうなことが2つあるといいます。

1つ目は、家庭水田を流行らせること。自家用の田んぼは、宮﨑さんの経験上では、平均して週にどこか半日管理するだけで作ることができるといいます。

手間暇をかけなくても、誰でも気軽にお米作りができるような仕組みがあれば、どの家庭でも自分たちの手で作ったお米が食べられるようになる。

家庭水田の仲間が増え、農機具をシェアしたり、お互いに情報を交換して栽培技術を高め合っていけば、よりラクに、たくさんの収穫ができるようになる。

農薬・化学肥料に頼らない、生き物がいっぱいの田んぼで、いろんな背景をもつ人たちが、それぞれの顔が見えるような特色あるお米を作って、その味をみんなで楽しめる、そんな未来を思い描いています。


2つ目は、種を貸し出すシードライブラリーを流行らせること。地域で昔から受け継がれてきた種の品種を守り伝えるのと同時に、いろんな人のおすすめの品種を共有することで島の食卓がより豊かになったらいいなとの思いがこめられています。

種をまき、育て、次の種をとる。その中で、種はその土地の気候や風土を記憶していくと言われています。シードライブラリーは海士町図書館で貸し出しており、自分が育てた作物の種をシェア、寄付することができます。

今年タネを採ることに失敗した作物があったとしても、ほかの人が採れていたら翌年も栽培できるし、いつか海士町ならではの作物の味ができてくるとおもしろいなと考えているそうです。


美味しいものを分け合う楽しさ

結局、一人でやってるだけじゃおもしろみが足りません。宮﨑さんご夫婦は、自給自足よりもシェアする関係性を作りたいと話します。

宮﨑美穂さん:
「自分たちで全部作ってしまえたら、そこで完結してしまいます。そうなると余白がありません。作れないものをシェアしたり、苦手なことを助け合う関係ができると、つながりが増えていく。

その輪がどんどん広がっていけば、純粋に楽しい。島暮らしの面白さは、実は自給自足ではないのかもしれません。

はじめて海士町に訪れたきっかけは、海士町は日本の箱庭のようなところで 海・山・田畑、全部揃っている。という言葉に出会ったからでした。

海士町に暮らして10年。海・山・田畑・人、全部があるこの島は、改めて最高の場所だと感じています。すべてがつながっていることを、ここまで体感できる場所は少ないかもしれない。

「自分たちが陸でどう暮らすかが、目の前にある海の美しさを左右する」ということが、あまりにもリアルなここでの生活。

使うもの、食べるものを、周りの環境に配慮しながら、これからもやりたいことを見守り応援してもらえる海士町で、自分たちでできることを楽しみながら続けていきたいと思っています。」


おわりに

宮﨑美穂さん、雅也さんありがとうございました。
「食べ方と生き方って、どこか繋がってるのかもしれない。」という言葉が印象的でした。食事は毎日必ず行うものだからこそ、日々の食べ方が癖づいていく。毎日の食べるものの積み重ねで、自分の身体と心ができていることを、改めて考えることができました。

家庭水田やシードライブラリーに興味を持ってくださった方は、こちらもチェックしてみてくださいね!


海士町のみなさんへ
海士町で新しく生まれた企画や新商品などがありましたら、ぜひ海士町総務課(TEL : 08514-2-0115)までお知らせくださいね。海士町noteやあまチャンネル(島のケーブルテレビ)などでご紹介できればと思います。



島との距離は離れても、気持ちはいつも近くに