「島じゃ常識さざえカレー」、「ないものはない」の誕生秘話。梅原 真さん・玉沖 仁美さんとのお話し会
島じゃ常識さざえカレー。海士町では誰もが知っている特産品。
このパッケージデザインをはじめ、「ないものはない」をデザインしていただいた梅原さんと、約25年前にさざえカレーの商品開発に尽力いただいた玉沖さん。
お二人ご一緒に海士町へ来られたこの機会に、隠岐ユネスコ世界ジオパークの泊まれる拠点施設 Entô にて、お話し会が行われました。
平日夕方にも関わらず30名を超えるみなさんに参加いただきました。お話し会の様子をお届けします。
ミニ講座:「そこにあるもの」をデザインする
まずは梅原さんによるミニ講座から。
「ぽん酢しょうゆ ゆずの村」や「漁師が釣って漁師が焼いた藁焼き鰹たたき」、「しまんと地栗」など、土地の魅力を引き出すデザインを手掛けてきた梅原さん。
海士町では「島じゃ常識 さざえカレー」や「ないものはない」のデザインをしていただきました。
梅原さん:
当時リクルートに勤めていた玉沖さんが、さざえカレーのデザインを僕に任せてくれて海士町に辿り着きました。
梅原さん:
カレーにサザエをいれるって「なんて豊かな島なの!」って思ったから、「サザエなんか毎日食ってるでー!っていったほうがええやん」ということで「島じゃ常識 さざえカレー」という商品名をプレゼンしました。
ところが商品開発をしていた地元のおばちゃんたち全員に反対されました ね。「島じゃ常識さざえカレー」の「島じゃ常識」には、当然違和感があります。この違和感にみなさんが反対している。
「恥ずかしいからやめてください」「牛肉じゃなくてサザエをいれているって言わないでください」という感じで。
それで、100%反対に合うから僕も気弱になりまして…。
別のデザインをプレゼンするんですけど、それを見た玉沖さんが、かつを入れてくれてね。
最終的には、現在販売している「島じゃ常識 さざえカレー」になりました。
梅原さん:
さざえカレーが販売されてからテレビで紹介されるときは、「島じゃ常識」という言葉が飛び交いましたね。
マスコミが飛びつくような入口が「島じゃ常識」だったんですよね。
そこから売れていったと思うんです。
「島で常識 さざえカレー」このフレーズが肝だったんでしょう。
それから10年後、海士町の役場職員の名刺のデザインを頼まれました。
そのときは、さざえカレーでも使った「島じゃ常識」を使うべきだと思ったんですよ。でも、島ではさざえカレー以外にあまり使われていなくて。「あら?」と(笑)
梅原さん:
役場の名刺だから、島のアイデンティティをデザインしないと名刺にならないんですよ。
「島じゃ常識 海士町」とやろうとしたけど、「島じゃ常識」という言葉ができてから10年以上経っていたわけでしょ。なので新しい島のアイデンティティを考えようと思いました。
梅原さん:
名刺をつくるときに町のアイデンティティを表現しようと、町の方とのディスカッションがはじまるんです。
ディスカッションには、当時大学生で今は海士町でナマコの事業もやっている宮﨑くんがいました。
宮﨑くんの母校の大学の近くには「ないものはない」と書かれた紙を貼っているお店があったらしくて。
「切手ありますか?」
と聞いたら、
「ありますよ!この字を見てください、ないもんはないですから~」
今度、
「絆創膏はありますか?」
と聞いたら、
「そんなもんない、ほらみて。ないものはないって書いてあるやろ」
って笑。
海士町の「ないものはない」は、このエピソードがきっかけで生まれたんですよね。
商品開発で大切な3つのこと
玉沖さんからは、さざえカレーでの商品開発を振り返っていただきながら、商品開発で大切な3つについてお話しいただきました。
玉沖さん:
今はいろんな自治体でお仕事させていただいていますが、成功に共通する3つの原則があるなと感じております。私はそれをさざえカレーに一番学ばせていただきました。
1つ目は、議論をすること。
打ち合わせや調整ではなく、自分の意見を一緒に携わっている方たちの中に出す。意見を出しあうことで磨かれていくんですよね。
2つ目は、行動する。
成功しそうなことしか行動したくないと思うんですけど、失敗って学びを得るものなんです。
さざえカレーのときはみんなで「これやったらいいんじゃない」と、とにかくたくさん行動したから、たくさんの学びと、ちょっとしたことでは揺らがない硬い土台ができました。失敗しても学びがあるからすぐに行動ができる、また学んだことで成果につながる。これを積み重ねてきました。
3つ目は、ブレないゴール設定をする。
ものをつくることに夢中になるけど、つくったら売らないといけません。
さざえカレーのときも「今、カレーをつくっているんだ」「何のために売るんだ」というゴールを決めたらみんなブレませんでした。
「議論する・行動する・ブレない」これをやっているプロジェクトは自分の望んだゴールを達成できていると思います。
梅原さんにとってのデザインと、意外な師匠
梅原さん:
だいぶ昔のできごとだけど、駅の近くで宝くじが売っていてね。
梅原さん:
「黙って買う」「祈る」「当る!」
この張り紙を見て、僕はわざわざ引き返して買ってしまった。
梅原さん:
宝くじは一例ですが、「本質を見極めてビジュアルにすること」がデザインなんです。
情報が溢れているところがスタートラインで、そこから大切なものを選んでいく。
さらに凝縮して3つくらいの塊になったら、本質がみえてくるから、それを押し出す。
その最後の一滴をデザインして相手に渡す。
そういう流れで物事を考えてほしいです。
本質を見極める。
宝くじ売り場のおばあちゃんは、キャッチコピーのプロだね。
僕はつい宝くじを買ってしまった。だから僕のデザインの師匠は、あのおばあちゃん。
宝くじ、全部はずれたんやけどね笑。
お話し会後半の質問タイムでは、現在「島じゃ常識さざえ カレー」を製造・販売している海士物産さんからも質問があり、今後の展開が楽しみになる一幕もありました✨
梅原さん、玉沖さん、ありがとうございました!
玉沖さんの「議論する・行動する・ブレない」。
梅原さんの「本質を見極めてビジュアルにすること」。
お二人が大切にされている「原点」を知ることができるトークイベントとなりました。