5年後、10年後も進化を続ける居場所へ。新しい役場の空間づくりについて。
2023年に工事がはじまった、「『つながる×つなげる』時とともに進化する、だれにも開かれたチャレンジスポット」をコンセプトとした海士町役場の新庁舎。
2018年には住民のみなさんを対象としたアンケート調査、2023年には小学生に向けた現場の社会科見学などが実施されました。
役場でのヒアリングを重ねながら、2024年11月の完成に向けて、着々と建設が進んでいます。
今回は、そんな新庁舎プロジェクトに携わる総務課還流DX特命担当の五島さん、AMAホールディングス株式会社 取締役の石原さんに新庁舎の空間づくりについてお話いただきました。
『つながる×つなげる』時とともに進化する、だれにも開かれたチャレンジスポット
五島さん:
海士町役場の新庁舎には「『つながる×つなげる』時とともに進化する、だれにも開かれたチャレンジスポット」という大きなコンセプトがあります。
このコンセプトは、住民さんのアンケート結果や、新庁舎プロジェクトの検討会の中で決まりました。
人が主役の海士町。住民さんに限らず、海士町が好きといってくださる方々や、観光で訪れる方々も、何かにチャレンジしたくなるような空気感、同時にほっと一息できるような、ゆったりとした雰囲気持つ海士町で、人と人をつなぎ、自然とつながる。そんな庁舎を目指すためのコンセプトです。
コンセプトに沿った空間づくり
五島さん:
僕が新庁舎プロジェクトを担当する前から「つながる×つなげる」というコンセプトはあったのですが、コンセプトをデザインにどう落とし込もうかという所で悩んでいました。
そこで、役場内でチームを作ろうと思い、声をかけてみたんです。
しかし、「つながる×つなげる」というコンセプトは役場の視点だけではだめで、役場「外」の視点が必要だと感じていました。
そんな時にAMAホールディングスの石原さんを紹介してもらったんです。
石原さん:
1番最初は新庁舎の1階にフリースペースをつくる構想があって。
でも、ただフリースペースをつくっても人に使ってもらえないから、交流の橋渡し役をAMAホールディングスにやってもらえないかという相談からはじまりました。
新庁舎の建設がどのように進んでいるのか興味もあったので、話を聞いてみたら、住民さんのためにどういうスペースにすべきかいろいろな意見で想いが溢れていて。
「これは一度整理が必要だ」と思い、お手伝いさせていただくことになりました。
石原さん:
その時の新庁舎のイメージは少し都会的で、海士町らしさがもっとあるといいなと思いました。
これまでに何度もヒアリングが行われていたので、考えるための素材はすでにありましたが、それが図面に落とし込まれていなかったのです。
なので、もう一度コンセプトの深堀りからしましたね。
役場のみなさんに集まっていただいて、今度は制限なしでみなさんにアイデアを出してもらったら、めちゃくちゃ面白かったですよね(笑)
五島さん:
そうですね!
石原さん:
ボルダリングの壁をつくりたいとか住民のみなさんとダンスの練習ができるように鏡を設置したいとか。
役場のみなさんと話すからもっと固い意見が出てくるのかと思いましたが、「何にも制限なくていいですよ」と言ったら本当にいろんなアイデアを出してくれて。
あれこれやりたいことがあって、住民さんにこうやって新庁舎を使ってほしいんだ、役場のみなさんは住民さんともっと自由に交流したいと思っているということがよくわかりました。
「たくさんあるアイデアの中からどれを採用するのか?」
石原さん:
話し合う中で、長い時間軸でみなさんが自由に変化させながら使える場所が必要だよねと五島さんをはじめとする役場のみなさんとも意見が一致して。
コンセプトを改めてしぼり直しましたね。
新庁舎と隣接する開発センターは1つの船「あま丸」。
石原さん:
まず「つながる×つなげる」という大きなコンセプトがあって、海士町には「ないものはない」という概念もある。
また、新庁舎だけではなく隣接する開発センターがあって、交流棟も新しく建つので、建物のトーンをあわせることも意識しました。
「つながる×つなげる」というコンセプトを新庁舎・開発センター・交流棟の全体に落とし込むために「なにが象徴になるかな?」と考えていたときに「そうだ!某アニメの海賊船だ!」とひらめいて。未来に向かって漕ぎ出す1つの船でありたいという想いから施設全体の象徴を「あま丸」と名付けるアイデアも出ました。
石原さん:
じゃあ「あま丸」という船にどういう場所があるのかと区別をしたときに、開発センターでは、図書館が拡張して、子どもたちや大人がインプットする「まなびば」や「あそびば」。
新庁舎の1階はみんなでお喋りができる「しゃばりば」。
新庁舎の2階は役場の窓口なのでそのまま「やくば」で、新庁舎建設後、新しくできる交流棟は、事業の継承や、プロジェクトを起こしていくという意味で「しごとば」。
「まなび場」「しゃばりば」「やくば」「しごとば」の4つの「場」が一体となって「あま丸」という船が動き出せばいいなと思っています。
※交流棟の「しゃばりば」については詳細検討中
石原さん:
地元の方に限らず、大人の島留学生や島外から来た方との接点を結び付け、みんなで作戦会議ができるような「しゃばりば」が理想的な形です。
海士町らしさ「ないものはない」を込める。
石原さん:
しかし、「きれいな役場になりました」、「きれいな共有スペースになりました」、「いっぱい新しい家具が並んでいて素敵!!」となる一方で、清掃センターでは古い家具がゴミになっている状態。これってハッピーじゃないよなと思って。
町のための役場ですけど、人間の暮らしのためだけではなくて、環境とか生き物も含めて島の未来だと思うので、まずはできるだけリサイクルができないのかを考えました。
ですが、ただ新庁舎ができて古い家具を入れるだけでは、逆に目立ってしまう。そのギャップをいかにかっこよく埋めることができるのかを考えましたね。
石原さん:
また、海士町には「ないものはない」という考え方や暮らし方があるように、そのマインドを届けたいと思っています。
消費するだけではなく、長く大切に使ってもらうことをメッセージとしてお伝えできる場でありたい。
そんな想いから、サーキュラーエコノミー(リサイクルする。リユースすることを考えてつくりだす。ものの循環)という考え方がより広がっていく、そういう家具や内装にこだわりました。
五島さん:
僕もリメイクした家具は新庁舎に合いそうだなと思っていましたが、なかなか踏み込めませんでした。
石原さんたちが「一緒にやりますよ!」と言ってくれたからやれるって思えた。
絵を描いたり、ビジョンを描いたり、イメージする力がたくさんあるから、僕にはない目線にいつも助けられています。
5年後、10年後と残り、進化し続ける庁舎へ
石原さん:
7月と9月には家具づくりのワークショップを予定しています。
自分が実際に作ったり、現場をみたり、さらに使っていた家具が5年後、10年後とその場所に残り続ける。
誇りと愛着という大きい意図があると思うので、できるだけ多くの住民のみなさんに触れてもらって、自分のお気に入りの家具が新庁舎に置かれている。そういう環境にしたいと思っています。
石原さん:
「僕の家の椅子なんだ」とか「おばあちゃんが使っていたタンスなんだ」みたいにストーリーも庁舎の中に残して、語り継いでいく、進化していく場所を目指したいですね。
また、今回のワークショップで、大工仕事をしてみて、将来この島の「ものづくりに携わりたい」と思う子どもたちが増えるとさらにうれしいです。
今年の11月に「はい!新庁舎ができました!」ではなく、完成までのプロセスを一緒に踏んでいく。いろんな作業があるので、住民のみなさんにはぜひ参加してもらいたいです。
五島さん:
ほかにも新庁舎の内覧会を予定しています。内覧会もまずは、気軽に参加してもらいたいですね。
━━ますます完成が楽しみになるお話。ありがとうございました!
誰もが利用できる新庁舎を目指して
最後に新庁舎プロジェクトに携わる、海士町役場総務課 松前課長からもメッセージをいただきました。
松前課長:
現在の海士町役場庁舎は、建設後50年以上が経過し、老朽化により地震等による災害時の安全確保が難しい状況となっています。
そのため、新しい庁舎を役場と開発センターの間に建設することになりました。
スペース的な制約がありますが、役場職員の将来に向けた働き方、また住民のみなさんの目線に立った新しい庁舎を目指して、最低限の経費で効率性を重視した、コンパクトな造りとなっています。
AI(人工知能)技術の発展やデジタル化の推進で、これからの行政事務は効率化や合理化が求められるのではないかと思います。
そういったこれからの働き方や防災の観点を踏まえ、新しい庁舎では2階に執務室を、1階を開発センターとつなげる形で多目的スペースにしています。
1階は主に交流を目的とした利用方法を検討しています。
住民のみなさんにも使っていただきながらアイデアを頂きたいですね。
通常役場は、各種手続き等、用事のある方が訪れる場所だと思いますが、海士町役場の新しい庁舎では、用事がなくてもいろいろな活動ができる場所(チャレンジスポット)として利用してもらいたいと考えています。
今後、海士町の新しい庁舎を拠点に、老若男女、官民問わず交流を図りながら、まちづくりの発信地となることを願っています。
イベントのお知らせ💁
▼海士町の新しい役場 内覧ツアーを開催します!
▼家具再生大作戦!思い出の家具が生まれ変わる!みんなでつくる、みんなの居場所
進化し続ける新庁舎。
5年後、10年後の未来を一緒に作りあげましょう。
(海士町note担当:渋谷・布野)