見出し画像

海が教えてくれる、人の営み。隠岐ユネスコ世界ジオパークの視点からみる水族館。

隠岐ユネスコ世界ジオパークの泊まれる拠点施設Entô(エントウ)。その隣にある、Entôジオラウンジにやってきました。

この日、訪れたイベントは「漂う水族館」
昨年の5月に西ノ島町からはじまり、隠岐の島町、知夫村と隠岐の島々を巡ってきました。最後の舞台は海士町。

階段を下ると、

さっそく、水槽とご対面です。

漂う水族館のコンセプトは「隠岐の海」
生息する生き物たちや海の特徴を通して、海と人のつながりを探める機会にしてほしい。そんな思いが込められています。

1つ目の水槽には、南の海から旅に来たお魚たちが泳いでいるようです。

「なぜ、日本海に南のお魚??」と思いますが、

隠岐には南から対馬暖流が流れており、あたたかい暖流にのって隠岐に辿り着くのだとか。

解説を読むとより知識が深まります

海の中だけではなく陸上の自然や人にも影響している対馬暖流。
あたたかい海流から発生した水蒸気が風で運ばれると湿度が高くなり、雨や霧、雪をもたらす原因になるらしい。

風が強くなったり雨が降ったり、雪が降ったり。コロコロと天気が変わる隠岐はこういう理由だったんですね。

「本日の天気は?」
みなさんが教えてくれた天気の中には…。

「色んな天気でなんてぜいたくなんだ!!」素敵な言葉をみつけました。

こちらには、「ジョロモク」という海藻が展示されていました。
何気なくみていた海藻にもちゃんと種類や名前があるんだな…

はじめて知った海藻の名前

水槽を眺めていると、ジョロモク(海藻)の丸い気泡を食べるテンジクイサキと遭遇。
気泡だけ食べられて海藻が枝だけになってしまうこともあるそうです(笑)

隠岐ユネスコ世界ジオパークのエリアの水深は、深くても100mほど。
水深が浅く、日光が届きやすいので、海藻も見えやすいのだとか。

一方で、きれいな海を保つために、海洋ゴミの問題は避けては通れません。漁網が絡んで、片足を失ったウミガメやイルカの尾にロープが絡むなど、隠岐での事例をもとに海洋ゴミと生き物について紹介されていました。

マイバックを持ち歩いたり、分別したり、海岸清掃をしたりちょっとした行動の積み重ねが海や生き物を守る一歩につながるかもしれない。
美しい魚を見るだけではなく、隠岐の海の環境問題についても非常に考えさせられた展示でした。

細かいプラスチックやゴミが漂っている。


「漂う水族館」を企画したのは、海士町複業協同組合で働く西田拓稔さん。どうしてこのような展示に至ったのでしょうか――。

西田さん:
きっと想像する水族館って、かわいい生き物がや人気の生き物がいて、大きい水槽があるところ。もちろんそれにも価値はあるんだけど、その土地に合った水族館をつくるってことが個人的には大事かなと思っています。

もしかしたら、地味に見えたり、小さく見えるかもしれないけど、その土地に生きている生き物をみて、勉強ができる。学びが自然と得られる空間を作りたいなと思っていました。

ハリセンボン

西田さん:
かわいい生き物を通して海のことを考えたり、自然のことを考えるきっかけづくりをポイントにしています。
この生き物が生きていく環境にはなにが必要なのか、自然と考える空間をつくる。それが僕が考える水族館の価値です。


西田さん:

4つの水槽は、座りながら落ち着いて生き物をながめてもらって、「あの魚かわいい!」、「ハリセンボンの針って不思議!」、「タコが壺から出てきた!」と生き物の動きを五感を通して楽しんでもらいたいと思い、つくりました。

西田さん:
生態系を支える土台には「地球」という「大地」があってその特性にあわせて生き物が存在します。隠岐は火山の活動によって形成された地形だから、海の中にはゴツゴツとした岩場がある。だから岩場を好むタコは集まってきます。

マダコ

西田さん:
さざえがいるのもアラメやワカメといった餌となる海藻が隠岐の海には豊富だから…。そしてさざえがいるから隠岐には「かなぎ漁」といった伝統的な漁法が存在するんです。

かなぎ漁:水中を箱メガネでのぞいて
ヤスでさざえやあわびを突いて獲る漁法。

西田さん:
こうして海や生き物から人の文化に派生していく。それを理解してもらう意義があると思っています。ただ、生き物を知るだけでは完結できないんです。だから今回の水族館では、生き物だけではなく、「天気」や「海洋ゴミ」、「かなぎ漁」とも紐づけて紹介しています。

「生き物がかわいい!」という常識を超えて、感性で触れながら「海や生き物」が「人の営みにもがつながっているんだよ!」ってことを知ってもらえたらうれしいです。

隠岐諸島は、2015年に「隠岐ユネスコ世界ジオパーク」に制定されました。

海洋生物や漁業など、人の営みも含め、隠岐を取り巻く環境が、隠岐ユネスコ世界ジオパーク。

単なる「海」ではなく、生息する生き物や海の特徴に目を向けてみたら、海と人をつなぐたくさんの物語と出会うことができました。

(写真提供:西田拓稔さん)
(執筆・写真:海士町note担当 渋谷)

この記事が参加している募集

島との距離は離れても、気持ちはいつも近くに